食物アレルギーは治る?最新研究でわかった予防・診断・治療の新常識
この記事でわかること
- 食物アレルギーの「常識」がこの10年でどう変わったか
- 昔は「遅らせる」、今は「早めに少しずつ」(予防の考え方の変化)
- 血液検査が陽性でも食べられることがある理由(感作と発症の違い)
- 加熱・加工すると食べられる場合があること(個人差に注意)
- 「治る」に近づく治療の今と限界(経口免疫療法・新しい薬)
- 新常識や情報をどう活用するか(主治医との関わり方)
「卵は1歳を過ぎてから」「一度アレルギーが出た食品は完全に除去」。少し前まで当たり前とされていたこうした考え方は、この10年ほどの研究で大きく見直されてきました。
この記事では、食物アレルギーの「新しい常識」を、日本の研究や国内の診療ガイドラインだけでなく、海外の研究も参照しながら紹介します。
どの資料にも共通して言えるのは、研究が進むほど、「正しい診断にもとづく必要最小限の除去」と「主治医の役割」が重要になってきているということです。
※本記事の内容は、日本小児アレルギー学会などの診療ガイドラインや、各国政府・国際機関の資料、査読による研究をもとにしています。治療方針や施行時期は2026年8月時点で確認したものです。出典は各章の末尾に示します。
はじめに:本記事は、食物アレルギーに関する最近の研究や変化した考え方を紹介するもので、医療上の助言ではありません。予防のための食べ始め、除去の解除、加熱した食品を食べられるかの判断、治療の可否は、いずれも自己判断せず、必ず主治医の指示に従ってください。特に、すでに症状が出たことがあるなどのお子さんにはリスクが高く、家庭で試すと危険な場合があります。詳しくは「免責事項」をご覧ください。
1. 日本でも食物アレルギーは増えている
結論:食物アレルギーは「珍しい体質」ではなく、日本でも子どもの間で増えている身近な問題です。だからこそ、最新の知識を持っておかなければなりません。
食物アレルギーは、決して珍しいものではなくなっています。診療記録をもとにした分析では、日本の6歳未満の有病率は2010年の3.38%から2019年の5.73%へと、10年で約1.7倍に増えました。
増加の理由に注意:この増加には、アレルギー診療が広まって受診する・診断される子どもが増えた影響も含まれると考えられます。「食物アレルギーそのものが急に増えた」と単純には読み取れません。
世界に目を向けても、先進国では子どもの7〜10%程度が食物アレルギーを持つとされています。原因になりやすい食品は地域によって違い、日本や韓国では「そば」、欧米では「ピーナッツ」や木の実が多いといった具合です。
一方で、日本の全国調査では、食物アレルギーの既往があると答えた人のうち、実際に医師の診断を受けていたのは子ども(0〜19歳)で35.8%にとどまっています。
有病率が増えているからこそ、自己判断による事故を防ぐためにも、きちんと受診して診断を受けることが大切です。
出典:Yoshisue ほか「日本の6歳未満の食物アレルギー有病率の推移」(Pediatr Allergy Immunol・2024/診療記録にもとづく分析で約1.7倍)、Ito ほか「日本の食物アレルギー全国調査」(JMA Journal・2023/既往と医師診断の割合)、Sampath ほか「Food allergy across the globe」(J Allergy Clin Immunol・2021)ほか。
2. 昔は「遅らせる」、今は「早めに少しずつ」
結論:昔は「アレルギーの原因になりやすい食品は遅らせて避ける」が常識でしたが、今は「適切な時期に少しずつ食べ始める」方が予防になりうると分かってきました。ただし、アレルギーが疑われるときなどは、医師の管理のもとで進めるのが前提です。
かつては、食物アレルギーを防ぐために、原因になりやすい食品は「食べ始めをなるべく遅らせて、避ける方がよい」と考えられていました。ところが近年の研究で、この考え方は大きく変わりました。
代表的なのが、イギリスで行われたLEAP研究です。ピーナッツアレルギーのリスクが高い乳児を対象に、早い時期から少しずつ与え続けたところ、5歳時点の発症が大きく減りました。
日本でも、国立成育医療研究センターのPETIT研究が知られています。湿疹のある赤ちゃんは食物アレルギーになりやすいことが分かっており、この研究も、湿疹のある生後4〜5か月の赤ちゃんを対象にしています。
湿疹で肌が荒れていると、その肌から入った食物に対してアレルギーを起こしやすくなると考えられています。そこでこの研究では、まず湿疹をしっかり治療して肌を整え、その状態を保ちながら、生後6か月から加熱した卵をごく少量ずつ与えました。
その結果、卵アレルギーの発症が大きく減りました(いずれも医師の管理のもとで行われた研究です)。
ただし、早く食べさせれば必ず防げるわけではありません。複数の食品で調べたEAT研究では、決められた時期と量で摂取を続けられた場合には効果が確認された一方、そうではない場合も含む全体で見ると差がはっきりしませんでした。
「適切な時期に、適切な量の摂取を、継続する」ことが鍵になります。
国内の診療ガイドラインでも、原因になりやすい食品の摂取開始を遅らせることは推奨されていません。
乳児に対して食物アレルギー予防のために、離乳食開始時期や食物アレルギーの原因食物となりやすい食物(鶏卵など)の摂取開始を遅らせることは推奨されない。
日本小児アレルギー学会「食物アレルギー診療ガイドライン2021」第6章
実際、国の「授乳・離乳の支援ガイド」でも、離乳の初期(生後5〜6か月頃)から、固ゆでした卵黄などを少量ずつ試すことが想定されています。
「適切な時期に少しずつ食べ始める」の前提:早期に食べ始める効果を示した研究は、いずれも医師の評価・管理のもとで行われたものです。重い湿疹がある、すでに食物アレルギーが疑われるお子さんは、自己判断で食べさせ始めると危険なことがあります。
食べ始める時期や量は、必ず主治医に相談してください。
出典:Du Toit ほか「LEAP study(ピーナッツの早期導入)」(N Engl J Med・2015)、Natsume ほか「PETIT study(加熱卵の早期導入)」(Lancet・2017/国立成育医療研究センター)、Perkin ほか「EAT study」(N Engl J Med・2016)、NIAID「ピーナッツアレルギー予防ガイドライン」(2017)、日本小児アレルギー学会「食物アレルギー診療ガイドライン2021」第6章、こども家庭庁「授乳・離乳の支援ガイド」(2019)。
3. 血液検査が陽性でも、食べられることがある
結論:血液検査でIgE抗体が陽性(感作)でも、そのアレルゲンを摂取して実際に発症するとは限りません。今の診療は「正しい診断にもとづく必要最小限の除去」を原則としています。
血液検査で特定の食品に「陽性」が出ると、「もう食べさせない方が安全」と思ってしまいがちです。しかし、血液検査の陽性(感作)は、実際に食べて症状が出ること(発症)とは別物です。
- 感作(かんさ):体内にアレルゲンが入ることで、アレルギー反応を起こす準備ができた状態。
- 発症(はっしょう):感作が成立した後に再び体内にアレルゲンが入り、実際にじんましんや呼吸困難などの具体的なアレルギー症状が出現した状態。
感作の証明だけで除去を安易に指導しないようにする。
日本小児アレルギー学会「食物アレルギー診療ガイドライン2021」第8章
正しく診断するには、血液検査だけでなく、医師の管理のもとで実際に少量を食べてみる「食物経口負荷試験」が必要です。今の診療は「正しい診断にもとづいて、必要最小限だけを除く」ことを原則としています。
もう一つ注意したいのが、「遅延型フードアレルギー検査」などと呼ばれる、血液中のIgG抗体を調べる検査です。これは食物アレルギーの診断法としては推奨されていません。
食物アレルギーの多くは、原因の食品を食べてすぐ(通常は2時間以内)に症状が出る「即時型(IgE依存性)」です。一方で、時間をおいてから症状が出る「非IgE型」もあり、症状が出るまでの時間は数時間から数日とさまざまです。
「遅延型フードアレルギー検査(IgG検査)」は、こうした時間をおいて出る反応の原因食品を特定できるとうたう検査です。
しかし、このIgG抗体は健康な人にもあり、陽性だからといって対象食品を除いてしまうと、かえって不要な除去や栄養の偏りにつながる恐れがあります。
食物抗原特異的IgG抗体検査を食物アレルギーの原因食品の診断法としては推奨しないことを学会の見解として発表いたします。
日本アレルギー学会「血中食物抗原特異的IgG抗体検査に関する注意喚起」
なお、これは「検査」についての見解であり、別に存在する、非IgE型の遅延性の食物アレルギー(新生児・乳児の消化管アレルギーなど)という病態そのものを否定するものではありません。
除去の緩和・解除は自己判断しない:アレルゲンの除去を解除するかは、医師の食物経口負荷試験の結果にもとづいて決めます。過去の血液検査の結果だけで除去を続けている場合は、定期的に受診し、場合によっては負荷試験を受け、対応方法を見直しましょう。
出典:日本小児アレルギー学会「食物アレルギー診療ガイドライン2021」第8章・第10章(感作と発症の違い・必要最小限の除去)、日本アレルギー学会「血中食物抗原特異的IgG抗体検査に関する注意喚起」。
4. 加熱・加工すると食べられることがある
結論:牛乳や卵のアレルギーでも、しっかり加熱・加工した形(焼き菓子など)なら食べられる人が多いと分かってきました。ただし、必ずではなく、個人差が大きいことには注意が必要です。
「牛乳」や「卵」のアレルギーがあっても、しっかり加熱・加工した形なら食べられる人が少なくない、と分かってきました。
専門の施設で行われた負荷試験では、牛乳アレルギーの子の約75%、卵アレルギーの子の約70%が、しっかり焼き込んだ食品(マフィンなど)を食べられたと報告されています。
さらに、こうした加熱・加工品を続けて食べることで、普通の牛乳・卵を食べられるようになる時期が早まる可能性も報告されています(いずれも医師の管理のもとで行われた研究です)。
ただし、加熱すれば必ず食べられるわけではありません。卵白のオボムコイドや牛乳のカゼインのように、加熱に強くアレルギーを引き起こす力が残りやすい成分もあり、食べられるかどうかは個人差が大きいためです。
『隠れアレルゲン』の記事でも触れたように「加熱すれば安全」とは限らず、加熱の効果は食品や、摂取する人によって異なります。だからこそ、食べられるかどうかは自分で確かめず、医師の判断に委ねる必要があります。
医師の指示なく保護者らの判断で自宅などにおいて試しに原因食物を食べ始めることは非常に危険なので、絶対にやめましょう。
アレルギーポータル(日本アレルギー学会)「食物アレルギー」
加熱すれば食べられるかは負荷試験で確かめる:加熱した食品を食べられるかどうかは、必ず主治医のもとで、食物経口負荷試験によって確かめてください。家庭で試しに食べさせるのは、強いアレルギー症状(アナフィラキシー)につながる危険があります。
出典:Nowak-Wegrzyn ほか「加熱牛乳の摂取に関する研究」(J Allergy Clin Immunol・2008)、Lemon-Mulé ほか「加熱卵の摂取に関する研究」(J Allergy Clin Immunol・2008)、Leonard ほか「Baked milk・egg のレビュー」(Nutrients・2013)、日本小児アレルギー学会「食物アレルギー診療ガイドライン2021」第12章、アレルギーポータル(日本アレルギー学会)「食物アレルギー」。
5. 治療の研究も進んでいる、でも「根治」ではない
結論:食物アレルギーを治療しようという試みは進んでいます(経口免疫療法や新しい薬)。ただし現状の治療は「根治」までの道半ばです。新薬も「重症化を抑える」段階で、日本では一般的には使えません。
食物アレルギーを「治す」ための研究も進んでいます。代表的なのが、原因の食品をごく少量から少しずつ食べて体を慣らしていく「経口免疫療法(OIT)」です。
ただし、国内の診療ガイドラインは、これを一般の診療としては推奨していません。
本ガイドラインでは、OITを食物アレルギーの一般診療として推奨しない。
日本小児アレルギー学会「食物アレルギー診療ガイドライン2021」第11章
「経口免疫療法」から得られる効果の多くは、原因の食品を食べ続けている間だけ症状が出にくくなる「脱感作」で、食べることをやめても平気になる状態(根治に近い状態)まで得られる人は限られます。
むしろ、治療の過程で強いアレルギー症状が起きやすくなる面もあることが分かっています。
また、新しい薬の開発も進みました。アメリカでは2020年、ピーナッツアレルギーの経口免疫療法の薬が世界で初めて承認されましたが、薬の目的は「根治」ではなく、ピーナッツを誤食してしまったときの症状を軽くすることでした。
なお、この薬は日本では承認されておらず、アメリカでも2026年に販売が終了しています。
さらに、ぜんそくなどに使われてきた注射薬(オマリズマブ)が、2024年にアメリカで食物アレルギーにも承認されました。これは、原因の食品を誤って食べてしまったときのアレルギー反応を軽くすることを目的に、定期的に注射して使う薬です。
ただし、アレルギーを根本から治すものでも、原因の食品を食べられるようにするものでもなく、原因の食品を避けることは引き続き必要です。日本では、ぜんそくやじんましんなどには使われていますが、食物アレルギーには承認されていません。
治療に関する情報の注意:経口免疫療法は、専門の医療機関が慎重に行うもので、家庭で真似できるものではありません。日本で承認されていない薬を個人輸入することも絶対に避けてください。紹介したような新薬も、緊急時のエピペンなどに代わるものではありません。
「治る時代」に近づいているのは確かですが、まだ道半ばです。治療に関心があるときは、まず主治医や専門の医療機関に相談しましょう。
こうして見ると、研究が進むほど、かえって「正しい診断にもとづく必要最小限の除去」と「主治医の役割」という土台の大切さが際立ちます。
我が家の体験
私たちは食物アレルギーの治療(経口免疫療法)に関心があり、息子は主治医の指導にもとづいて、「市販の某食パン(5枚切り)を1枚」や「半熟部分のない卵焼きやゆで卵」を食べています。
食パンについては主治医から銘柄と何枚切りかの指定があり、銘柄によってアレルゲンの含有量が、厚さによって食べる量が調整されています。実際に、これまで銘柄は変化し、厚さも8枚切りから6枚切り、5枚切りへと、量が少しずつ増えてきました。
私には、「乳」を含むハムを息子に誤食させてアレルギーを発症させてしまった経験があります。あのときの息子の辛そうな表情が忘れられない私からすれば、主治医の指導なくして、「乳」を含む食パンや、「卵」そのものである卵焼きなど、アレルゲンを含む食品を食べさせることなど、怖くてできません。
出典:日本小児アレルギー学会「食物アレルギー診療ガイドライン2021」第11章(経口免疫療法)、Chu ほか「ピーナッツ経口免疫療法のメタ解析(PACE)」(Lancet・2019)、アメリカFDA「Palforzia」(2020承認/日本未承認・2026年に販売終了)、OUtMATCH試験「オマリズマブの食物アレルギーへの効果」(N Engl J Med・2024)、ゾレア添付文書(国内の適応に食物アレルギーは含まれない)。
6. 新常識との付き合い方
結論:常識は変わり続けますが、私たちがやるべきこと(子どもにしてあげられること)は同じです。正しく診断し、必要最小限を除去し、それらの方針を主治医と定期的に見直すことが基本になります。
- 予防は自己判断で早めも遅めもしないアレルギーの原因になりやすい食品は「適切な時期に少しずつ食べ始める」方が予防になりうることが分かってきています。しかし、食べ始める時期や量が重要であり、また、特にアレルギーが疑われるなどのお子さんの場合、自己判断で予防すると危険なことがあるため、医師の方針にそって進めます。
- 血液検査の結果(陽性)だけで除去を決めないアレルゲンの「除去」や「除去の解除」の決定には、血液検査だけでなく、医師の管理のもとで実際に少量を食べてみる「食物経口負荷試験」が必要です。IgG抗体を調べるとうたう「遅延型フードアレルギー検査」を誤用した結果、除去する食品をいたずらに増やさないようにします。
- 加熱すれば食べられるかどうかには個人差があるアレルギーがあっても、加熱・加工した形(焼き菓子など)なら食べられる人もいます。ただし、全員ではなく、食べられるようになる加熱の具合も人それぞれで、保護者らの判断で試すことは非常に危険なので、医師の指示に従います。
- 治療は専門施設で、薬の個人輸入はしない経口免疫療法は、「専門の医療機関が慎重に行い、効果を少しずつ観察する」段階なので、家庭では真似できません。また、海外で認められている新薬も「重症化を抑える」段階で、日本では承認もされていません。
- 新しい常識は「医師への相談の材料」として使う新しい常識や情報は、食物アレルギー根治の希望になりますが、家庭で試す材料ではありません。あくまで、主治医に相談するときの材料として役立てます。
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